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トロ戦・アンソロジー企画

失われた叙事詩を創作によって補完する企画

トロイア戦争って?
ギリシャ神話の中で描かれるアカイア勢(ギリシャ)とトロイア勢(現トルコ国内に位置)の長きにわたる戦争、それがトロイア戦争です。

ホメロスが『イリアス』においてうたったアキレウスの怒りで有名なトロイア戦争。
かの戦争は十年に及ぶ長いものでした。『イリアス』はトロイア戦争の十年目の数日間を切り取ったものです。古代の著述家たちが戦争の発端や、イリアスで語られる以外の戦い、そして戦争の終わりなどを残していますが、トロイア戦争の叙事詩の環と呼ばれる叙事詩についていえば、残っているのは『イリアス』『オデュッセイア』のみです。
『キュプリア』、『アイティオピス』、『小イリアス』、『イリオスの陥落』『ノストイ』…『テレゴニア』…散逸したこれらの叙事詩の内容は断片的に知ることができるのみとなっています。

トロイア戦争中の話は
 ホメロス(松平千秋・訳)『イリアス』岩波文庫
 クィントゥス(松田治・訳)『トロイア戦記』講談社学術文庫
       (北見紀子・訳)『ホメロス後日談』京都大学学術出版会

に詳しいです。いずれもトロイア戦争十年目の時間軸となり、内容としてはイリアス→トロイア戦記という時系列です。『トロイア戦記』『ホメロス後日談』は同一作品の訳者違いです。
読みやすい再話としては
 バーバラ・レオ二・ピカード(高杉一郎・訳)『ホメーロスのイーリアス物語』岩波少年文庫
がイリアスの空気感をうまく残しており、かつトロイア戦争全体の流れが追えるのでおすすめです。
 ローズマリ・サトクリフ(山本史郎・訳)『トロイアの黒い船団』原書房
は文章量が多くないので、てっとりばやく流れをつかみたい方はこちらから手をつけるのもありかと思います。アラン・リーの美麗な挿絵つきです。
 

散逸叙事詩について

語られていたとされる内容は以下の通り
『キュプリア』
 
ペレウスとテティスの結婚~トロイア戦争開始後(『イリアス』開始前まで)
『アイティオピス』
 
『イリアス』の後~アキレウスの葬送競技
『小イリアス』
 
アキレウスの武具をめぐる争い~トロイア陥落
『イリオスの陥落』
 
木馬の計~トロイア陥落~戦利品分配
『ノストイ』
 
アガメムノンとメネラオスの喧嘩~アガメムノンの帰国~オレステスの復讐
『テレゴニア』
『オデュッセイア』後~オデュッセウスの死

以上の叙事詩は散逸していますが、内容はプロクロスが残した便概によって知ることができます。
散逸した叙事詩、プロクロスの梗概に関しては、
 中務哲郎・訳『ホメロス外典/叙事詩逸文集』京都大学出版会
 岡道男『ホメロスにおける伝統の継承と創造』創文社


もっとくわしく!イリオンの陥落について

作者はアルクティノス。
『イリアス』に続く叙事詩であり、内容は以下の通り。
木馬のトロイアへの引き入れ、祝宴。
ラオコンの死。アイネイアスのトロイア脱出。
シノンの合図、ギリシャ勢の攻勢。
ネオプトレモスのプリアモス殺害、メネラオスによるデイポボスの殺害。
アイアスがカッサンドラとともにアテナ像を引っていき、仲間はこれに激昂。
アイアスはアテナの祭壇に逃げ込み石打ちの刑をまぬかれる。
オデュッセウスによる、アステュアナクス殺害。
ネオプトレモスのアンドロマケ獲得。
テセウスの子デモポンとアカマスが祖母アイトラをトロイアより連れ帰る。
トロイアに火がはなたれ、アキレウスのためにポリュクセネが生贄として屠られる。


もっとくわしく!小イリアスについて
作者はレスケス。
アキレウス死後、その武具の所有権をめぐりオデュッセウスとアイアスが争い、オデュッセウスが勝利。アイアスは狂気に陥り自害。
オデュッセウスはトロイアの王子ヘレノスを捕まえる。ヘレノスの予言をもとにピロクテテスを連れ戻す。
ピロクテテスの傷はマカオンによって癒され、彼はパリスを討つ。
パリス死後、デイポボスがヘレネと結婚。
オデュッセウスがスキュロスよりアキレウスの子ネオプトレモスを連れてくる。
エウリュピュロスがトロイアの援軍としてやってくるも、ネオプトレモスがそれを討つ。
エぺイオスは木馬を作る。
オデュッセウスは変装してトロイアへ潜入。ヘレネに会う。またディオメデスとともにパラディオンを盗みだす。
アカイア勢は戦士を入れた木馬を残して陣屋を焼き払い、テネドスに船団を潜ませる。
トロイア方は城壁を壊して木馬を引き入れ、祝宴をはる。


もっとくわしく!アイティオピスについて

作者はアルクティノス。
『イリアス』に続く叙事詩であり、内容は以下の通り。
ペンテシレイア来援と彼女の死。
アキレウスのテルシテス殺害、殺人の穢れの清め。
メムノンによるアンティロコスの死、アキレウスVSメムノン。
アポロンとパリスによるアキレウスの死、アイアスによるアキレウスの遺体回収。
テティスの嘆き、アキレウスをレウケの島へ。
アキレウスの墳墓作成と競技会、アキレウスの武具をめぐる大アイアスとオデュッセウスの争い。



もっとくわしく!キュプリアについて

作者はスタシノス、あるいはヘゲシノスなどの説がある叙事詩。
内容を以下に簡単に書くと…
ペレウスとテティスの結婚、三女神の争い、パリスの審判。
パリスのヘレネ略奪、オデュッセウスの出征拒否、軍勢のアウリス終結、ミュシアの誤襲撃、アキレウスとデイダメイアの結婚、テレポスの治療。
アウリス再集結、イピゲネイアの犠牲、ピロクテテス置き去り事件、プロテシラオスの死。
周辺都市の略奪、トロイロス殺害、ブリセイスとクリュセイスの獲得。



もっとくわしく!ノストイについて

トロイゼン出身のアギアスという人が作者とされる叙事詩。
アガメムノンとメネラオスの仲違い、小アイアスの難破および死、メネラオスのエジプト寄港、ネオプトレモスが祖父に会うまで、アガメムノンが妻に殺され、息子オレステスが復讐を果たすまで、などが語られたようです。以上の内容は、プロクロスによる便概で知ることが出来ます。

その他アカイア勢がトロイア戦争後にどうなったかについては、いくつかの作品で言及されています。

 アポロドーロス(高津春繁・訳)『ギリシア神話』岩波文庫
 クィントゥス(松田治・訳)『トロイア戦記』講談社学術文庫
 ディクテュス、ダレス(岡三郎・訳)『ディクテュスとダーレスのトロイア戦争物語』国分社

アガメムノンに関してはオレティア三部作アイスキュロス『アガメムノン』

また、ホメロス『オデュッセイア』はオデュッセウスの帰国物語であり、他のアカイア勢についても触れられています。
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